ハーモニカ吹きの先輩

先日、前の職場の先輩にバッタリ道で逢った。先輩はすでに退職している年金受給者だ。「これからどちらへ?」私が聞くと、先輩は明るい表情で「ハーモニカを吹きに行くんだよ!」といいながら、都内のある有名病院の名前を告げた。「ハーモニカを病院で吹くのですか?」私は先輩が一生懸命、患者さんの前でハーモニカを吹いているところを想像した。「オレの演奏でも癒されるんだって」と先輩は自分が役立っている事をさりげなく自慢した。

患者さんによって病気も症状も、いろいろある。闘病で大変な日常を忘れるくらいハーモニカを楽しんでくれていることで、先輩もこれが生き甲斐となり、演奏会は長く続いているらしい。視力の弱った寝たきりの老人は、若い頃に流行っていた曲をリクエストしてくれる。その曲を聴きながら、体をスイングさせている情景をみながら、先輩は「役立っている!」と充実感に浸るらしい。

「芸は身を助ける」と昔からいわれている。ハーモニカが吹けることで人を癒すことができる。他人を喜ばせるために、出張演奏会を催すということで、最高の看護になっていると思う。患者さんの喜ぶ表情や仕草に先輩は感動する。むしろハーモニカを吹いている先輩の方が何倍も癒されているのかもしれない。

先輩は、得意のハーモニカをボランティアで吹きながら「情けは人の為ならず」を実践している最中だ。輝いていた先輩のまなざしが私の脳裏から離れない。今日もどこかの施設で、患者さんのこころを射止めているのだろう。